黄金色に輝く蜂蜜をたっぷり蓄えた板状の巣は、大きな樽に半分ほど。抱えるとずしりと重い。持ち帰り、ザルにさらし布を敷いた中に入れて濾す。じっくり時間をかけ、蜜が自然に垂れるのを待つ「垂らし蜜」と呼ばれるこの方法は、時間がかかるが、地ばちみつ本来の色と風味、栄養分がそのまま残る。
山の恵みのおすそわけ地ばちみつのモノがたり
伝統の垂らし蜜製法だから
自然の風味と栄養、そのまんま
地ばちみつは、野生の日本ミツバチが五木の野山に咲くさまざまな木々の花や、山野草から集めたもの。ハチウトを設置した周辺の森や標高の違いによって、蜂蜜の味もわずかずつ異なる。西洋ミツバチによる一般的な養蜂と違い、日本ミツバチの蜜は年に一度しか収穫できない。1つのハチウトから採れる蜂蜜は1升瓶5~6本ほど。希少な蜂蜜だ。日本ミツバチは環境の変化や農薬の使用により、全国的に数が減少している。大自然に囲まれた五木村は、日本ミツバチにとっては楽園のような場所だ。
「ちょっと食べてみんね」。稔さんが採ったばかりの、蜂蜜の詰まった巣のかけらをくれた。そのまま口に入れると、舌の上でパリッと巣が砕け、深みのある濃い、甘い蜂蜜がじゅわっと溶け出す。
山と共に暮らしてきた村びとの知恵と工夫。そのおかげで、こうして地ばちみつが手元に届く。
「また来年もハチが入ってくれるとよかばってんなぁ」。
鶴崎さん兄弟といっしょに、もう一口ほおばる。また来年も、どうかこれから先もずっと。大自然への感謝と敬い。夕日に金色に輝く蜂蜜に、山で暮らしてきた村びとの思いが見える。