五木村の人びとが愛してやまない山菜の1つが、カァバクショウ。レースのような小さな花がまとまった大きな花を咲かせる、セリ科のハナウドの新芽のことで、ウコギ科のヤマウドとは違って、柑橘のようなさわやかな香りが特徴だ。
五木村のソウルフード「カァバクショウ」
2月から5月までと旬が長く、旬の初めはまだ開ききっていない若芽を、半ばを過ぎると芯に近いやわらかな葉を採り、天ぷらや白和えにして楽しむ。
「五木らしい山菜かなと思います。人吉球磨でも、他のところでは食べる人は少ないのですが、五木の人はみんな大好きですね」。
そう語るのは、惣菜いつき苑の岩﨑円さん。生まれも育ちも五木村で、実家の両親とともに、地元の山菜や自家栽培の野菜を使い、総菜やお菓子を道の駅物産館に出荷する加工の達人。カァバクショウは、春先の山菜セットや総菜に欠かせない食材で、ホウレンソウとカァバクショウを半々に使い、五木豆腐と味噌、砂糖、ゴマで和えた白和えもおすすめだそう。あまり知られていない分、五木村からカァバクショウのおいしさを伝えたい、と笑顔で語る。
春先から初夏まで続く 4種のタケノコ
五木村では、モウソウチク(3月下旬~4月半ば)、コサンダケ(4月下旬~5月)、ハチク(4月下旬~5月下旬)、カラタケ(5月下旬~6月)と、時期を少しずつずらしながら4種類のタケノコを楽しむことができる。
シーズンになると、クド(カマド)に薪をくべ、羽釜でタケノコを茹でる光景をあちらこちらで見る。薪の炎の方がガスより火力が強く、熾(おき)になっても火が続くので長時間茹でることができ、長く茹でるほどやわらかくおいしく仕上がるという。
下梶原地区の印道清子さんは、モウソウチク出荷者の1人。
「タケノコ採りはイノシシとの競争。近年は減ってきていますが、竹林を柵で囲って対策をし、春先は天気も見ながら一番おいしい時期に合わせて収穫します」と話す。
まだ小さいうちに、土の中から掘ったものはゆがいて出荷。少し伸びたタケノコは、乾燥タケノコに。先端部分を鎌で刈り、半分に割って内側の節を丁寧に取り除いてから茹でて乾燥させ、道の駅物産館に出荷する。
「干しタケノコも、羽釜で長時間湯がいてから乾燥させた方が、戻したときにふっくらやわらかくなるんですよ」と印道さん。飴色の乾燥タケノコを再びお湯で茹でて戻すと、コリコリした歯ごたえと旨みを楽しめる。椎茸や山菜とともに、五木村の郷土料理である煮しめや混ぜ飯には欠かせない食材だ。
山菜やタケノコは、長く厳しい冬の終わりを告げ、命みなぎる春とともに届く山からのおすそわけだ。春先だけでなく、伝統の知恵と技を活かした乾物や塩漬けで、ぜひ一年を通しておいしく楽しんではいかが。