秋、朝の気温が15度を下回るようになると、いよいよシイタケの季節が訪れる。
五木村では、ホダ場の標高に合わせてシイタケの収穫時期が異なる。秋のシイタケは、標高約1000mの子別峠地区から始まり、だんだんと標高の低い場所へ移動する。最も寒い12月から2月の間は一旦途切れるが、3月に入り朝の最低気温が15度以上になると、今度は標高300mほどの頭地(とうじ)地区から春のシイタケ収穫が始まり、4月の終わりにかけて標高の高い地区へと徐々に移っていく。
収穫時期や成長の速さは自然まかせで、急に冷え込んだり雨があまり降らない日が続けばなかなか生えず、雨が続いた後、湿度と気温の条件が整えば一斉に生えることもある。
標高差に合わせて 秋から春まで
「うちのホダ場は五木じゃ一番標高の高かけん、秋は一番最初に出てきて、春は一番最後まで収穫が続く。自然が相手だけん、いつも思った通りとはいかん。狙った時に生えんだったり、逆に収穫が間に合わんぐらい、まとめてどっと生えたり。朝早う、まだ真っ暗なからヘッドライトを付けて母ちゃんと二人で収穫することもあるばってん、良かシイタケは収穫のタイミングが大事だけんですね」と中村巧さん。子別峠地区にホダ場を持ち、良質な乾燥シイタケにファンも多い生産者の一人だ。
五木を代表する山の恵み
葛ノ八重地区生まれの園田久さんは、焼畑や林業など、山とともに生きる両親の姿を見て育った。現在、山の伐採や農業を行う「園田農林株式会社」の代表を務め、原木シイタケの生産にも力を入れている。
園田さんのホダ場は、フクジュソウの群生地として有名な仰烏帽子(のけぼし)山へ向かう、元井谷地区の杉林の中にある。鳥のさえずりが遠くに聴こえ、涼しい風が通る杉の木陰に木漏れ日を浴びたホダ木が整然と並び、静かに収穫の季節を待つ。
原木シイタケ栽培では、運搬以外はほぼ機械を用いず、すべて人の手で作業を行う。
「山からクヌギを伐り、数万個の種ゴマを打って、重い原木を何度も運んだり並べたり。楽な仕事じゃなかばってん、五木んシイタケはどこに出しても恥ずかしくなか品質だと思います。きれいか空気と水に恵まれた自然環境で、ゆっくり時間かけて育つからでしょうね。生でも乾燥でもおいしか、自慢のシイタケです」と園田さんは話す。
旬になると、道の駅子守唄の里五木の物産館店頭には、収穫したての生シイタケが所狭しと並ぶ。生で出荷しない分は、まとめて乾燥機に。薪や灯油ボイラー式の乾燥機に並べ、シイタケの状態を見ながら細やかな温度と送風調整を行い、ひだが美しい山吹色に色づいくまで一晩かけて干し上げる。どんこ、こうこ、こうしん、ジャミ、バレなど、大きさと品質の等級で分け、物産館のほか市場へも出荷される。
シイタケには、食物繊維やカリウムなどが多く含まれる。乾燥させることで、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、旨み成分であるグアニル酸などがぐんと増加し、さらに栄養価が高まることでも知られる。だしはもちろん、煮ても焼いても炒めても、和洋中料理に使いやすい万能食材だ。
冬を2回、夏を2回越えて、ゆっくりと時間をかけて五木の大自然が育む、山の恵み。滋味深い味わいとともに、ほんのひととき、五木村の山々に思いを馳せてみてはいかがだろうか。