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受け継いだ在来種を次の世代へ五木赤大根のモノがたり

赤大根と向き合い続けた50年

五木赤大根は、種取り用の大根を畑で冬越しさせる。4月に開花させた後、6月に種取りをして、標高が高い子別峠では8月下旬に種を播き、11月、霜が降りる前までに収穫する。
犬童さんは、五木赤大根のそばに白大根を植え、春に開花させて自然交配させ、採取した種を翌年播いてみることにした。

自然交配させた種を播いた翌年、犬童さんはやや長めの赤大根を作ることに成功した。ところが、赤い大根は一部だけ。半分以上は白や薄紫色の大根だった。外見が赤くても、切ってみると芯の部分の色はやはりバラバラ。同じ1つの親株から採れた種でも、遺伝の法則によって、特に最初の10年余りは白い大根の方が多く採れたと言う。

これでは市場には出せないと、犬童さんは選抜を繰り返すことにした。外見も芯の部分もなるべく赤い大根を選び、冬越しさせ花を咲かせて種を採り、その種を植えて間引きして赤い大根の芽だけを残し、再びより赤い大根だけを選んで種を採る。理想の五木赤大根を求めて、ひたすら毎年同じ作業を繰り返し、それは農協職員を辞めてからも続いた。
以来50年以上に渡って、犬童さんは赤大根の種取りと栽培を続けてきた。その甲斐あって、今では白や紫の大根ができることは無く、見かけも濃い赤色で、芯にも赤い色が広がる五木赤大根だけが育つようになった。

再評価されるふるさとの野菜

現在、ホームセンターには品種改良された赤大根の種も並ぶようになった。太く大きく育つ、やわらかくて食べやすい大根ばかりだが、五木赤大根の大きさはその3分の2から半分程度。あまりやわらかくもない。
「改良された一般的な大根に比べればこまかけん、道の駅に出しても見劣りしてなかなか売れん。売れ残ってばかりだけん、毎年『もう今年で赤大根を作るとはしまいにしよう』と思っとですよ」と苦笑いする。
「ばってん、続けてほしかちゅう声もあってですね」。

犬童さんの元には、五木赤大根を求めて、研究者や学生、レストランのシェフなどが毎年のように訪れる。2022年には村主催で在来作物体験ツアーが開かれ、都会から来た20名余りのお客さんが犬童さんの畑で収穫体験し、赤大根料理教室を楽しんだ。近年では、村の別の地区で復活した焼畑での五木赤大根の栽培も始まり、加工品も販売されるようになった。

五木赤大根は、五木村の人たちが長い暮らしの中で受け継いできた「生きた文化財」だ。変わりゆく時代の中で、赤大根の価値や魅力、犬童さんの地道な取り組みが再評価されつつある。
犬童さんは今年もまた、赤大根の種取りをした。小さな茶色いサヤを割ると、中から山吹色の小さな種が数粒、手のひらにこぼれ落ちた。

「もう少し知名度ば上げて、特性を活かしたおいしか食べ方ももっと知ってもらえたら。売れるなら作ろうかちゅう人が、村の中に出てきてほしかですね。私も元気なうちはもうしばらく、作り続けてみようかと思うとります」。
五木赤大根に込められた、静かな情熱とふるさとへの思い。もっと多くの方に「おいしいね」を届け、五木赤大根のことを知ってもらえたら。犬童さんはそう願っている。

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